[ 2023.10.1 ]
Part 1:サイエンスの視点から
「おいしさデザイン」を学ぶ
つくりおき食堂まりえさん
日直:つくりおき食堂まりえさん

2023年9月21日、味の素社の「うま味体験館」で、味の素ヘルス・アンド・ニュートリション・ノースアメリカ社のコーポレートシェフであるクリストファー・ケッキさん(以下、クリスさん)とアーロン・アンドリュースさん(以下、アーロンさん)をお招きし、LOW SALT CLUB~うま味DE減塩部(以下、LOW SALT CLUB)とのコラボレーションイベントが行われました。その様子を全3回にわけてレポートしていきます!

今回のイベントに参加したLOW SALT CLUBの部員は、私(つくりおき食堂まりえ)と、あーぴんさん、小春さん、だれウマさんの計4名です。この4人は昨年度から部員として参加していたメンバーでもあります。

イベントは、味の素社グローバルコミュニケーション部の武内茂之さんの挨拶からスタート!

「味の素グループはアミノサイエンスで人・社会・地球のウェルビーイングに貢献することをパーパスとしています。ウェルビーイングを実現するためには、まずは栄養バランスの良い食事を日々実践すること。これが体の健康にとても重要です。さらに、そこに“おいしく”食べることをプラスすると栄養バランスの良い食事を続けやすくなり、ひいては心の健康や幸せを感じるライフスタイルにもつながるため、食事の“おいしさ”はとても大切です。

本イベントは、食事をおいしくするための「デザイン」というアプローチを軸に、LOW SALT CLUBの料理インフルエンサー、味の素社のコーポレートシェフ、そして味の素社食品研究所の研究員が、それぞれが提案するおいしさのつくり方を題材に、試食を交えてディスカッションし、ウェルビーイングにつながる“おいしさ”を考える取り組みとして開催します」

▲司会進行は、味の素株式会社グローバルコミュニケーション部サイエンスグループ 武内茂之(たけうち・しげゆき)さんと門田浩子(かどた・ひろこ)さん

私(今回日直のまりえです)も、冒頭から期待で胸が高鳴りました。国境を越えてディスカッションし、減塩をはじめとする社会課題解決にもつながる「おいしさのデザイン」を、日米でグレードアップさせていこう!というこのイベントに、ワクワクしました!!

このレポートでは、おいしさの科学、プロの調理技術の解明、食の体験と心理的価値の関連解明などの研究を行う、味の素株式会社食品研究所エグゼクティブスペシャリストの川﨑寛也さんによるプレゼンテーションをご紹介します。

今回のプレゼンでは、味の感覚、うま味、だしを中心に、科学的な視点で解説してくださいました。「だしは素材を超えさせる。素材の特徴や良さを活かし、苦味などをまろやかにする。」というお話は、まさにLOW SALT CLUBでうま味調味料を使ってレシピ開発をする中で実感していたこと。うま味により素材の味を引き立てることで塩分量を控えても満足感のあるおいしさになるんです。

減塩料理の課題の一つは、塩分量を減らすことで薄味となり、食べた人が「おいしくない」と感じてしまうこと。それは世界各国に共通した課題です。そこで、味の素社では、うま味によるおいしい減塩を広めるための取り組みを国内外で行っています。LOW SALT CLUBもその取り組みの一つ。川﨑さんの解説を聞き、「おいしさデザイン」の考えが、うま味調味料を活用した私たちの減塩料理にも応用されているんだと、点と点がつながった感覚でした!

<このセッションのポイント>
・おいしさをデザインするという考え方
・おいしさを感じる仕組みとは?
・味わいの変化を測定する手法「TDS(Temporal Dominance of Sensations)」

おいしさをデザインするという考え方

食品研究所で“おいしさ”を科学的に研究されている川﨑さんは、日ごろから「おいしい料理を作るために何が必要かを本質的に考え、デザインすること」の重要性をプロの料理人向けに、伝えていらっしゃるとか。

デザインとは、本質を見出して意図的にコントロールすること。おいしかったという満足感を与えるためにどう組み合わせるか、そのヒントをサイエンス(=本質を見える化するための考え方・方法)に求めるというのが川﨑さんの考え方だそうです。そのために、味の感覚、成分と構造、調理科学を知ることが大切で、その組み合わせが「おいしさデザイン」になるそうです。

▲講師:川﨑寛也(かわさき・ひろや)さん/味の素株式会社食品研究所エグゼクティブスぺシャリスト、特定非営利活動法人日本料理アカデミー理事

「レシピを考えるとき、まず素材があり、そこから調理方法を考える人が多いのではないでしょうか? 調理法によって生まれる風味や食感が決まり、それにより味が自然と決まりますよね」と川﨑さん。

一方、川﨑さんの考える「おいしさデザイン」では、その順番とは逆のことをするそう。まず食べる人に「どう感じさせるか?」から発想し、そのために表現する味や風味、食感を考え、調理方法を決めていくのだとか。

▲LOW SALT CLUB部員たちは、川﨑さんのプレゼンに聞き入ったり、手元に配布された資料を真剣に読み込んだりしながら、おいしさのデザインについて学びました。

たとえば、減塩料理では、「適度な塩味を感じさせたい」と考えて、ではその適度な塩味を実現するには、「どんな材料を入れるべきか?」「どう作るべきか?」という順番で考えていけばよいのだそう。奥深い!

おいしさを感じる仕組みとは?

少しおさらいすると、おいしさを司る味覚の基本味(甘味・酸味・塩味・苦味・うま味)は、実は人間が必要な栄養素を得るために役立っているそうです。
どういうことかと言うと、その食べ物が人体に必要な栄養素なのか、逆に、人体に有害な食べ物(例えば毒物など)なのかを教えてくれるシグナルの役割があると考えられているのです。

例えば、うま味成分のグルタミン酸は母乳にも含まれ、うま味は赤ちゃんも好きな味。人がうま味を感じるとき、その食べ物には生きるために必要となるたんぱく質が含まれていることを知らせてくれているそうです!

▲我ながらめちゃくちゃ真剣な表情(笑)それほど興味深い講義だったんです!

では、私たちはうま味をどう感じているのでしょうか?
まず、舌にある「うま味受容体」に「うま味物質」が入ることで、うま味を感じます。

「鰹昆布だし」はとても強いうま味を感じますよね。それは、うま味物質である昆布のグルタミン酸と鰹節のイノシン酸を同時に味わったことで「うま味の相乗効果」が生まれ、うま味が飛躍的に強く感じられるようになるため。

これをさらに解説してもらいました。うま味受容体にまずグルタミン酸が入ることで、うま味を感じます。その上からイノシン酸がふたをしてくれるので、うま味をより長く、より強く感じるんだとか。だから、鰹昆布だしはよりおいしく感じるのだと納得しました!!

▲「グルタミン酸とイノシン酸の相乗効果の仕組み」川﨑さんのプレゼンテーション資料より。

味わいの変化を測定する手法「TDS(Temporal Dominance of Sensations)」

おいしさをデザインするときに参考になるのが「TDS(Temporal Dominance of Sensations)」という、味わいの変化を測定する手法だそうです。味覚や風味など複数の特性を感じるタイミングや順序、時間の長さを計測できるのだとか。

ここで川﨑さんは、TDSのおもしろい活用事例として、チョコレートの実験の話をしてくださいました。なんと、チョコレートにもうま味を使えるとのこと!

最初にチョコレート風味と甘味があり、最後にミルク風味がするというのが普通のミルクチョコレート。川﨑さんがショコラティエに頼んで作ってみたのは、なんと「フリーズドライの賀茂茄子しば漬け入りチョコレート」だそうです!

▲コーポレートシェフのお二人も時々メモを取りながら真剣に聞き入っていました。

試作品をTDSで測定すると、最初に甘味を感じ、次に塩味、最後にうま味を強く長く感じるという味わい評価になったそうです。この結果を見て、うま味が長すぎると考え、賀茂茄子しば漬けの量は変えずに、コーティングとプラリネを逆にしてみたそうです。最初はコーティングがミルクチョコレートで、プラリネがほうじ茶とアーモンドでしたが、コーティングをほうじ茶チョコレートに、プラリネをアーモンドだけにしてみたんだそう。すると、うま味がグッと切れて、塩味が残るという変化があったとのこと。

▲川﨑さんのプレゼンテーション資料より

川﨑さんいわく、このように、TDSの測定結果をデザイン画のようにとらえて味わいを調整していくことができるそうです。

TDSっておもしろい!それだけに、私たちが普段、家庭料理のレシピを考えるときに使えないのは残念・・・!!でも、測定のための専用の機器がなくても、味の特性を感じるタイミング・順序、長さを意識するという考え方自体は、LOW SALT CLUBのおいしい減塩レシピ開発にも活かすことができそうです。

参加したLOW SALT CLUB部員たちの声

食べる人にどう感じてもらいたいか、からスタートして、人がおいしさを感じる仕組みを理解し、風味や食感を考え、科学的検証を重ねておいしさをデザインするという一連の流れは、説得力と納得感があり学びの連続でした。参加したLOW SALT CLUB部員の感想コメントもご紹介します!

だれウマさん:
実は今まで、うま味の後味は長い方がよいと思っていたんです。でも、川﨑さんのお話から、料理の狙いによっては後味を残さないようにすることも大切なんだと気づかされました。それ以外にも、今日はたくさんの新たな発見があってとても面白かったです!

私(まりえ)からの感想も改めて一言。川﨑さんのレクチャーを通して、グルタミン酸とイノシン酸を合わせて使うことで、うま味の相乗効果が起こりおいしくなる仕組みを図解して教えていただくなど、とっても勉強になりました。うま味を強く、そして長く感じる作用機序がわかってスッキリしました。今後のレシピ開発に役立てていきたいです!

Part 2では、日米それぞれのうま味を活用した「ローソルトメニュー」をたくさんご紹介します。お楽しみに!

【参考文献・サイト】
うま味の基本情報 | 特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター (umamiinfo.jp)
うま味ペディア | 知る・楽しむ | 味の素株式会社 (ajinomoto.co.jp)
うま味って何だろう? | 日本うま味調味料協会 (umamikyo.gr.jp)
Temporal Dominance of Sensations (TDS): 感覚の経時変化を測定する新たな手法 (jst.go.jp)